これは、国民年金保険料を1年以上納めていなかった「年金花子」さんと「年金太郎」さん(仮)二人の身に起こった年金のお話です。
20年以上前、私は年金のことにあまりにも無知だったために国民年金保険料を払わずに放置してしまったことがあります。そのことは今も後悔しています。
私が年金を未納にしていた20代の頃、当時の社会保険庁は「未納者」に対してあまり厳しい対応は行っていませんでした。
そのため、幸いにも私は何か恐ろしい体験をしたということはありませんでしたが、本来なら厳しい督促を受けていてもきっとおかしくはない状況だったと思います。
今現在、年金運営が日本年金機構に代わってからは「長期」の未納者に対して、かなり厳しい対応を行っているとの話を聞きました。
この話は、少し人物設定は変えていますが、知り合いの社会保険労務士さんを経由して聞いたかなり事実に基づいた内容となっています。
この話を信じるか信じないかは最終的にはそれぞれの判断となりますが、おそらく想像しているよりも恐ろしいことになりますので、もしもの時のために注意してご覧ください。
【ケース1】
茨城県在住/20代大学生/実家暮らし/年金花子さんの場合
花子は、地元の大学に通う20歳の大学生です。会社員の父と専業主婦の母の家族3人で暮らしています。
大学2年生になり、もうすっかり大学生活にも慣れ勉強にアルバイトにと毎日忙しく過ごしていました。
いつものように学校から帰えると、玄関のところに郵便物が置いてあることに気づきました。
その郵便物をよく見てみると「花子」宛てに親展で届いた手紙でした。差出人は「日本年金機構」となっていました。封筒を開けると「年金手帳」と書かれた青色の小さな手帳が同封されていました。
つい最近、花子よりも少し誕生日が早い友達から「20歳になると自宅に年金手帳が届くよ」と聞いていたので、このことを言っていたのかと特に手紙の内容も気にせずに、年金手帳をすぐ自分の机の中にしまいました。
それから、数ヶ月後。今度は分厚く膨らんだ封筒が花子宛てに届きました。また「日本年金機構」からでした。
その封筒を開けてみると「国民年金保険料」の納付書が何枚も束になって入っていました。一括払いの納付書なのかかなり高額な保険料が書かれた納付書もありました。
花子はさっそく母親に相談しましたが、母は20歳で結婚し専業主婦として暮らしていましたが、今まで「年金」というものを一度も納めたことがないということでした。
父親に相談してみようとも思いましたが、現在は単身赴任中で自宅へ戻ってくるのは月1、2回でした。毎日仕事が忙しいと聞いていたこともあり、花子はわざわざ電話をするまでもないと思い、年金のことは帰ってきた時に聞いてみることにしました。
その時、花子は、母親が「国民年金第3号被保険者」(父の被扶養者)で納付不要であったことを知らず、年金とは「任意」で納めるものだと勘違いをしていましたので、自分も放置していてもきっと大丈夫だろうと思っていました。
その後、父親は何度か自宅に帰って来ましたが、花子は納付書について相談することなどすっかり忘れてしまい、そのうち納付書もどこかへ行ってしまいました。
さらに数ヶ月後。花子は21歳になっていました。
ある日の夕方。玄関のインターホンが鳴り花子がドアを開けてみると一人の男性が立っていました。
花子に用事があってやって来たとのことでしたが、まったく身に覚えもない男性でした。不審に思いながもひとまずその男性の話を聞くことにしました。
どうやら日本年金機構から「業務委託」をされた会社の人のようでした。その男性の話によると、何度か花子の自宅に電話をかけていたようですが、いつも不在だったため今回訪問したとのことでした。
そして、「20歳から現在まで国民年金保険料が納められていませんので、早めに納めてください」とのことでした。
今まで全く聞いたこともない名前の会社の人が突然やって来て、いきなりお金を払えなんていうのは、何かの詐欺なのではないかと疑いました。しかも、未納額が約20万円という高額。このご時世、どこで騙されるか分からないととても警戒しました。
つい数日前に、母親がガス会社から来たという2人組の男性に怪しい契約をされそうになったという話を聞いていたので、私は絶対に騙されないと花子は心の中で誓いました。
そして、その男性には「わかりました。すぐに納めます」と心にもない言葉を返すと、あっさり帰って行きました。
その後も、花子は納付することもなく放置し続け、頻繁に自宅にかかってきていた委託会社と思われる電話も無視し続けました。
すると、今度はとても目立つ色をした封筒が花子宛てに届いていました。また、日本年金機構からでした。
封筒を開けると「特別催告状」という文字が入った一通の手紙が入っていました。
その手紙をよく見てみると「国民年金保険料を〇月〇日までに納めないとあなたの財産を差し押さえる」「同居の世帯主にも連帯義務が課せられる」と書かれていました。
花子は手が震えました。そこで初めて花子は事の重大さに気がつきました。「財産って何?」「世帯主ってお父さんのこと?」「差し押さえるって私の家?車?」もう何がなんだか分からなくなり、そこで初めて父親に相談しました。
父親からはなんで早く言わなかったのかとかなり怒られましたが、とりあえずその封筒を持って急いで年金事務所に行ってみることにしました。
年金事務所の中に入ると国民年金課のほうに案内されました。番号札を取り待合室でしばらく待っていると、今度は一番奥にあるブースのほうに案内されました。そして、席に着くと一人の女性職員が現れました。
花子は半分涙目になりながら、自宅に届いた「特別催告状」を取り出しました。そして「期限までに必ず納付すること」「差し押さえはしないで欲しいこと」をその女性職員に伝えました。
すると、「大丈夫ですよ、いきなり差し押さえはしませんよ」「こうして相談に来てくれることを待っていたんです」と優しく返事が返ってきました。
そして、もし納めることができない場合は「学生納付特例制度」の手続きをすれば10年間納付を猶予してもらえるということを、その時初めて知りました。
できれば親には負担をかけたくないという気持ちと、自分で働くようになってからゆっくり納めていきたいという気持ちがあったため、その場で「学生納付特例制度」の手続きをすることにしました。そして、家に帰りました。
その後は、委託会社からの電話は一切なく、二度とその男性も自宅に来ることはありませんでした。
【ケース2】
東京都在住/40代会社員/借家/一人暮らし/年金太郎さんの場合
太郎は、建設会社で働く会社員です。現場作業員として昼夜問わず勤務がありましたが、ここ数年はずっと夜勤が続いていました。
勤務時間は午後10時から午前5時まででしたので、日中の午前9時から午後6時頃までの間はおもに就寝時間としていました。
日中は睡眠を邪魔されないように電話は留守電に切り替え、インターホンも音が鳴らないようにしていました。
太郎は、1年以上もその建設会社で働いていましたが雇用形態が日雇いであったためしばらく社会保険には加入していませんでした。
でも、太郎はむしろ夜勤手当や危険手当なども含まれた高い給与に満足しており、手取り額が減ってしまう社会保険への加入は望んでいませんでした。
厚生年金にも加入していなかったため、太郎はずっと国民年金の被保険者となっていました。定期的に太郎の自宅には「日本年金機構」から国民年金保険料の「納付書」が届いていましたが、
「どうせ俺が歳を取った頃には年金なんて破綻している。納めても意味がない」と封筒すら開けず、毎回ゴミ箱に捨てていました。
そのようなことが何度も続いたころ、今度は日本年金機構から「特別催告状」という手紙が届きました。
しかし、太郎は「こんなの脅しだ。どうせ役所のことだから本気でやるわけがない」「財産なんていっても俺には持ち家も車もない。俺の銀行口座を知るわけないしいったい何を差し押さえると言うんだ」と高をくくってその手紙を捨ててしました。
その後も「特別催告状」は何度も届いていましたが、とうとう太郎がその封筒を開けることはありませんでした。
そんなことが1年以上も続いたある日。今度は「赤色」の封筒が届きました。また、日本年金機構からでした。
今度はなんとなく嫌な予感がして、太郎は封筒を開けてみることにしました。手紙には「最終催告状」という文字が書かれていました。
その手紙には、前回まで届いていた特別催告状よりかなり厳しい内容でこれは「最期通告」になると書かれていました。
どうやら記載されている「納付期限」までに保険料を納めないと、今度は「延滞金」もかかるという内容でした。ただし、何かの事情で納付ができない場合は、「年金事務所」に相談をしてくださいとも書かれていました。
太郎は、そろそろ何とかしないまずいかなと思いながらも、今月はお金を使いすぎてしまいとても国民年金保険料を払うまでの余裕がありませんでした。
来月の給料が出てから考えようかと思いましたが、それだと手紙にある「納付期限」はとっくに過ぎてしまうので、とりあえず年金事務所に相談しに行こうと思いました。
ただ、太郎は仕事が忙しく毎日夜勤続きで日中はほとんど就寝しており、平日の昼間に年金事務所に行く暇がありませんでした。
「仕事が忙しいという理由があるし、役所のことだから少しくらい納付期限を過ぎても大丈夫だろう」と、またしても手紙を無視してしまいました。そして、すっかりその「最終催告状」のことも忘れてしまいました。
そして、その納付期限から数週間経ったある日。
今度は「督促状」と書かれたものが届きました。その手紙を見てみると、保険料には「延滞金」14.6%が加算されていて「一括」で納付してくださいと書かれていました。
「延滞金が14.6%って消費者金融並みじゃないか。高すぎる。こんなの払えない、ふざけるな」と太郎は激怒し、その「督促状」も無視しました。
その後、「年金事務所」から頻繁に電話がかかってくるようになりました。ただ、太郎は就寝中は電話に出ないようにしていたため大量のメッセージだけが留守番電話に残っていました。
結局、太郎は一度も「年金事務所」からの電話に出ることも、そして電話をかけることもしませんでした。
すると今度は「差押予告通知書」というものが届きました。もうここまで来ると太郎も開き直っていました。「差し押さえするというならやってみろ」とばかりに、またもや手紙を無視し続けました。
それから数週間後。突然「銀行」から連絡がありました。その銀行というのは、太郎が給与の振込口座として指定している銀行でした。
銀行の担当者の話によると、太郎の預金口座は「日本年金機構から差し押さえられ現在凍結している」「日本年金機構との問題が解決するまでは預金の引き出しは一切できない」との内容でした。
さすがに、太郎もこれでは生活ができないと観念し、すぐに会社へ休暇申請を出して年金事務所へ行くことにしました。そして、年金事務所で厳しく注意を受け「延滞金」も含めた国民年金保険料を「一括」で支払いました。
その後、すぐに太郎の銀行口座は元に戻りました。
太郎は、これに懲りて毎月きちんと国民年金保険料を納付することにしました。
おしまい。
この2つのケースですが、どちらかというと「年金花子」さんのケースのほうが多いのではないかと思います。
花子さんの場合は、昔の私のように「年金に関する知識不足」と「勘違い」から起こったことだと思います。
「年金太郎」さんのようなケースはあまりないかもしれませんが、未納を放置しままにしておくと最終的には概ねこのような流れで厳しい対応が取られるようです。「役所」の仕事だからと甘く考えていた結果だったように思います。
「差し押さえ」については、「預金口座凍結」のほかにも、勤務先に連絡が行き本人への「給与」の支払いが差し押さえられることもあるようです。
また、職員が自宅に訪れ、自動車、テレビや家具などの家財を「公売」にかけられるてしまうこともあるようです。ただ、差し押さえまでされるのはかなり悪質な未納者に対してだけのようですが。
いずれにしても、国民年金保険料はきちんと納めるということが大切です。
もし、どうしても納められない時には早めに近くにある年金事務所に相談したほうが良いということですね。私が言うのも少し説得力に欠けますが、過去の反省点を踏まえてのお話でした。
ぜひ参考にしていただければと思います。
それでは、また。
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